【特集】Z世代のボサノヴィスタたち Vol.1 WILL SANTT

2024年5月、ウィル・サント(Will Santt)はリオのコパカバーナにあるブルーノートで公演を行った。
ショーに招待されたベテランミュージシャンのホベルト・メネスカルは、満員の客席を見て驚いたと告白する。
「彼らはこの21歳をどこで知ったのだろうか?」と。
答えは、彼のフォロワーが25万人近くいるInstagramだ。
ボサノヴァを歌ってInstagramでブレイクし、ファーストアルバムをリリースする21歳のミュージシャン「ウィル・サント」とは何者なのか?

2003年生まれサンパウロ出身のエマニュエル・サントス・ソウザは12歳でボサノヴァに夢中になり、セルタネージョ、ロック(特にレッド・ホット・チリ・ペッパーズ)、クラシック音楽などの他の音楽ジャンルにも興味は飛び火していったそうだ。
中でも最大のインスピレーションはMPB、特にジャヴァンだそうだ。
高校時代には同学年のティーンエイジャーとは異なるレトロな服装とブラックパワーヘアを好んだという。アメリカの俳優ウィル・スミスにちなんでウィルとあだ名されるようになった。
ウィルはちょうどその頃、現在のInstagramのプロフィールを作成した。2020年、17歳頃だった。

これが彼のバーチャル・ステージの始まりであり、彼の芸術が世界的に知られるようになる空間の誕生だった。

ウィルの声を聞けば、誰もがすぐにジョアン・ジルベルトを連想するだろう。彼の最も人気のある動画自体、ジョアン・ジルベルトによるヒット曲「O pato」のカバー演奏だ。

「僕はいつも静かに話してきた。静寂が好きなんだ。それは歌い方にも反映されていた。
だからボサノヴァを知ったとき本当に共感したし、自分のスタイルに合っていたんだと思う。
そしてジャヴァンやジルベルト・ジルのギターと、カエターノ・ヴェローゾの歌詞とが合わさって、今の僕があるんだと思う」

実際、歌声からはジョアンっぽさは感じるものの、ギター奏法は必ずしも一定ではなく前奏はギターソロから入り、時折バーデン・パウエル奏法までも垣間見られるあたり、広く吸収していることがうかがえる。

一昨年くらいからヨーロッパでの演奏が多くなりつつあり、歌手アンジェリーク・キジョーの招待でスイスのダボスで開催された世界経済フォーラムでコンサートを行っており、今年もスペイン、イタリアなどのツアーに出る予定となっている。

まだまだブラジル国内での評価は未知数だが、ホベルト・メネスカルは、ウィルとジョアンのつながりは必然的で、将来を有望視していると語る。

ウィル自身もジョアンのスタイルに留まらずボサノヴァを少しずつアップデートしていきたいという。
「僕の観客の60%以上は年配者で、18歳から27歳の若者は少数派です。僕の目標は若い聴衆に焦点を当てて、もっと手を差し伸べること。個人的な夢ですが、セルタネージョ、ポップス、ファンキに支配された今のブラジル音楽シーンに、ボサノヴァから始まったスタイルを取り戻すこと。実現するのは難しいとわかっているが僕はそこに立ち会いたい」。

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