憧れのブラジル航路 第3回

昭和時代に日本でリリースされたブラジル音楽のレコードあれこれ

第3回 ミッドナイト・イン・リオ

アーティスト: V.A.
原題:Midnight In Rio
発売会社:日本グラモフォン株式会社
レーベル:Polydor
品番:LPPM 108
録音年:1956~年
発売年:1959年
価格:1700円

明仁親王と美智子さんがご成婚、長嶋茂雄が天覧試合でホームランを打ち、伊勢湾台風が戦後最大級の被害をもたらした昭和34年(1959年)。
日本人にとって忘れられないこの年に発売された本作品は、1956年から1958年にかけてブラジル・ポリドール社が録音した6組の楽団によるコンピレーション(原盤は西ドイツ)です。
発売元の日本グラモフォン株式会社はポリドール株式会社の前身で、1956年から1971年まで存在しました。
ジャケット写真は前回に続いてポン・ヂ・アスーカルがモチーフ。
この時代はキリスト像よりポン・ヂ・アスーカル推しのようですね。
タイトルになぞって夜景となっています。海岸線を走る道路はルイ・バルボーザ通りでしょうか?
現在は埋め立て拡張されて人気ビーチとなったフラメンゴ海岸、当時はこんな感じだったんですね。

さて、収録曲を紹介しましょう。
A面の冒頭を飾るのは名門リリオ・パニカリ楽団による「マラカンガーリャ」です。
「マラカンガーリャ」は実在の地名ですが、ここではサブ・タイトルに「プエルトリコのシコ」と題されています。まだまだラテン音楽とブラジル音楽が同一視されていた時代、これは致し方ないですね。
A2「かわいいバイヨン」、ジョアン・ジルベルトとジョアン・ドナートが共作した「ミーニャ・サウダーヂ」として知られているB3「私の思い出」、B6「時を逃して」はショーロ系クラリネット奏者のサイルスによる演奏です。
A3「雨の降るときに」、A6「狂える心」、B2「思い出を抱いて」、B7「ドリーニャの祭りに」と、4曲も収録されたのはフランス人のトロンボーン&ベース奏者でブラジルに移民したユージン・デレームによる演奏。
特筆すべきはA3で、この曲は実はトム・ジョビンとルイス・ボンファが共作した幻の楽曲として知る人ぞ知る「ア・シュヴァ・カイウ」です。
某CMソングの元ネタとしてご存じの方もいるでしょう。
A4「丘のサンバ」、B1「君に捧げるショリニョ」、B5「ことわりなさい」のペルナンブコはアコーディオン奏者でしょうか。
A5「カラピーショ」、B4「ショーロ第2番」はオーストリア出身でブラジル人と結婚して移住したスティーブヴ・ベルナールによるハモンド・オルガンによる演奏、A7「ブン・キ・ティ・ブン」はいろいろ調べましたが正体不明の演奏家、ロザリオ楽団、となっています。
と、このように見た目は観光土産的なのイージーリスニング作品の体をしていますが、なかなか渋めのセレクションです。特にA2とB3はボサノヴァ愛好家の好奇心をくすぐりますね。
解説は昭和の音楽評論の大御所、永田文夫氏。シャンソン系の評論で有名ですが、「ラテン・フォルクローレ・タンゴ」という書籍を出版されており、ワールド・ミュージックという言葉がない時代に広く聴かれていたようです。
実はこの作品、CD化はされていませんがSpotify等で配信されています。
まずは聴いてみて、音源を気に入ったら是非レコードも探してみてください!


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