【新連載】憧れのブラジル航路 第1回

昭和時代に日本でリリースされたブラジル音楽のレコードあれこれ

戦後、日本人の海外旅行が自由化されたのは1963年(昭和39年)のこと。
ヴァリグ航空が日本ブラジル直行便フライトを開設したのは1968年(昭和44年)。
昭和の高度経済成長期、ブラジルに渡航する日本人のほとんどが移民や企業駐在、僅かな留学生などで、気軽に観光旅行できるようになるにはもう少し年月が経ってからのことでした。
そんな当時、ロックやジャズ、ハワイアンやラテン音楽などと共にブラジルの音楽も日本盤のレコードが発売されていました。
ブラジルはもちろん海外旅行さえ憧れだったこの時代、当時の日本人にはどのように聴こえたのでしょうか?
このコーナーではそのようなレコードを昭和的懐かしさで振り返りつつ現代の感覚で紹介していきます!

昭和時代に日本でリリースされたブラジル音楽のレコードあれこれ

第1回 ブラジルの旅愁

アーティスト:V.A.(コンピレーション)
原題:A Visit to Brazil
発売会社:日本ビクター
レーベル:DOT
品番:SCO 5006
録音年:1958年
発売年:不明
価格:不明

ジャケット写真は波止場のフェイラに並べられたお椀と壺を興味深そうに見ている観光客風の老夫婦。
場所はフォルタレーザかサルヴァドールか、恐らくはブラジル北東部の港町でしょうか?1958年にラテン音楽に強い米国シーコ・レーベルに録音されたこの作品は、シーコが大手の米国ドット・レーベルの配下となったことでドットと契約していた日本ビクターが日本盤として発売したようです。


ジャケットのイメージとは裏腹に、収録曲は当時最先端のサンバ・カンサォンで占められており、当時人気絶頂であのエリス・レジーナも憧れていたというアンジェラ・マリア(1,4,7,9,11,14)、米国にも在住経験があり1962年にはニューヨークのカーネギー・ホールで開催された歴史的ボサノヴァ・コンサートで歌ったカルメン・コスタ(5)、まさにトム・ジョビンの勧めでボサノヴァを歌おうとしていたサンバ・カンサォンの女王、エリゼッチ・カルドーゾ(12)、コーラス・グループの男声サンバ・コーラス・グループのティテゥラレス・ド・リトモ、女優としても活躍したカルミーナ・マスカレーナ、レコーディング時はまだ新人だったヘレニーナ・コスタ(13)、そして唯一のインストルメンタルでアコーディオン奏者のウチオ・ガエータ(2,8)が参加しています。

本作の米国盤を所有するブラジル人コレクターによると、本作の一部の曲は既存の楽曲ではなく、この作品の為に新たなアレンジを施して録音されたオリジナルとのことだそう。まさにリオデジャネイロでボサノヴァが誕生しようとしている直前、サンバ・カンサォンのスター達による海外録音企画があったというとは非常に興味深いですね。日本の中南米音楽評論の開祖、高橋忠雄氏による日本語解説も貴重です。

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