【特集】ブラジルから見た、F1がここ10年で経験した大きな変化

F1は、スポーツ面でも商業面でも、ここ数年で最も大きな変化を経験したカテゴリーのひとつだ。

F1がここ10年で経験した大きな変化

1つ目は2014年には、電気と内燃機関を組み合わせたハイブリッドエンジンが導入されたことだ。

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ハイブリッドエンジンは1950年のF1開始当初から使用されていた旧式の内燃エンジンよりもはるかに効率的であるにもかかわらず、ファンからはあまり好まれていない。
その主な理由のひとつは、騒音ともいうべき独特のエンジン音が聞けた旧式エンジンの音と、より静かな新エンジンの音とのロマンの違いにある。
しかし、F1がこの変更を行い電気と内燃機関を組み合わせたより静かなエンジンを採用した主な理由の一つは、この技術が自動車業界の今、直面している立場に起因する。自動車業界では、化石燃料の使用を徐々に減らし、電気の使用を増やしているという流れに追従せざるを得ないのだ。
近い将来、F1はハイブリッドエンジンを廃止し、合成燃料を使用する新しい内燃エンジンを採用するかもしれないが、それはまだ定かではない。

2つ目は2016年には、F1の商業的権利がアメリカのメディア・コングロマリット(複数のメディア・コンテンツ企業を傘下に持つ複合企業)であるリバティ・メディアによって買収され、このカテゴリーの番組が世界中で放送される手法が変わり、人気が急上昇したことだ。

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結果的にリバティ・メディアについては、このカテゴリーに良い面でも悪い面でも影響をもたらしたと言える。
良い面としては、ソーシャルメディアやNetflixの番組『Formula 1: Drive to Survive(邦題:栄光のグランプリ)』を活用してF1人気を幅広く集め、より若く多様な観客をファン層に取り込むことに成功し、リバティ・メディアはF1の全米での人気を拡大したこと。

悪い面としては、同国で年間3レースを開催する一方で、フランスやドイツなど、モータースポーツにとって非常に重要な国々のレースを放送カレンダーから除外したことなどが挙げられる。

3つ目は2022年には、空力開発に関する新しい規則が導入され、ダウンフォースが復活しグラウンド・エフェクト構造が大幅に規制緩和され、1982年以来40年ぶりに事実上の解禁となったことだ。

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グラウンド・エフェクト・カー (ground effect car) はレーシングカーの一種で、車体下面と地面の間を流れる空気流を利用してダウンフォース(下向きの力)を獲得することを目的に設計された車。

ここ数年、F1マシンの空力設計に関する規則が大幅に変更され、その主な特徴を挙げるとするならば、グラウンド・エフェクト・カーの復活に尽きるだろう。
1970年代後半に活況を迎えたグラウンド・エフェクト・カーはそれに起因すると見られる事故が多発したことで使用を禁止する経緯があったが、近年フォーミュラカーの安全性が大きく向上したことや、レーシングカーの空力に関する研究が進んだことなどが後押ししてグラウンド・エフェクト・カーを見直す動きが生まれ、今回の規制緩和につながった。
この変更により、F1業界はレースの質の向上を期待し、当初その効果が一定数見られていたものの、現在では期待したほどの効果を上げていないというのが実情だ。
また2026年には、新しい空力規則と現行よりもさらに多くの電力を使用する新エンジンが導入される予定となっている。

ブラジルにおけるF1

そして最後に触れておきたいのは世界各国と同様、ブラジルにおけるF1もここ数年でいくつかの変化を経験しているということだ。

このカテゴリーのファンの特徴は大きく変化しており、以前はファンの大半を年配の富裕層男性が占めていたが、現在ではF1をフォローする若い女性の数がますます増加しているというところだ。
この変化の主な理由は、F1のソーシャルメディアでの存在感の高まりと、前述したNetflixのシリーズ「栄光のグランプリ」などの爆発的な人気の影響が大きい。
このドキュメンタリーシリーズはドライバーのイメージや個性にまで掘り下げ、時に誇張してレースをドラマ化しており、リバティ・メディアがF1ファンを多様化するために制作したということもあってブラジルでもこのシリーズは人気だ。

さらに2025年には、ブラジル人F1ファンにとって非常に重要な出来事が起きた。
それは2017年以来初めてとなる、ブラジル生まれの新しいドライバーがこのカテゴリーに参入したことだ。
この新しいドライバーは、2004年にサンパウロ州生まれのガブリエル・ボルトレートという人物。

photo:gettyimages

ガブリエル・ボルトレートのキャリアは、2022年までヨーロッパのカテゴリーで目立った活躍はなかったため、ブラジルのモータースポーツファンからはあまり注目されていなかった。
しかし、2023年にF3デビューを果たすと、その存在感を一気に際立たせ始め、カテゴリー初年度でまさかの優勝を獲得。
さらに2024年には、F1を目指す若手ドライバーにとって最も重要なカテゴリーであるF2で、再びルーキーとしてチャンピオンを獲得した。
この2つのタイトルがF1チームの注目を集め、ガブリエル・ボルトレートはスイスのF1チームであるザウバーと契約し、2025年に世界トップクラスのモータースポーツカテゴリーで戦うこととなった。
ザウバーは小規模なチームで、勝利を争うほどの資金力はないことから、ほとんどのレースで、このブラジル人ドライバーはトップ10入りしてポイントを獲得することを目標に戦っている。
ブラジルでは通常、ドライバーは勝利を収めて初めて有名になるため、ガブリエル・ボルトレートはまだほとんどのブラジル人にはあまり知られていないが、それでも世界中のF1専門メディアは、この若いブラジル人ドライバーを取り上げ称賛し、2025年のF1最優秀新人ドライバーの一人と評価している。
さらに、2026年からはザウバー・チームはドイツの自動車大手アウディの傘下となり、現在よりもはるかに多くの資金が投入される見込みで、ガブリエル・ボルトレートにとってより良い結果を目指すことができると期待されている。

ブラジル人F1ファンにとってもうひとつ重要な要素は、1970年代からサンパウロ市のインテルラゴス・サーキットで開催されているブラジル・グランプリだ。
インテルラゴスはかなり古いサーキットで、最新のサーキットと比べると比較的シンプルな作りではあるものの、それがむしろ非常にエキサイティングなレースを生み出すことから、世界最高峰のサーキットのひとつとして評されている。
たとえば2024年には、マックス・フェルスタッペンが17番手スタートから雨の中を走り抜き、4年連続の世界タイトルをほぼ確実にしたレースがここインテルラゴスで開催され、近年最もエキサイティングなレースのひとつとして記憶されている。

現在、インテルラゴスはF1と契約を結び、2030年までブラジル・グランプリが開催され続けることが保証されている。
ブラジルのF1ファンにとっては、このレースが今後も長年にわたってここで開催され続けるかどうかが非常に重要な要素なのだ。

このように、世界およびブラジルにおけるF1の現状は10年前よりもとても良好であり、このカテゴリーはますます人気が高まり、チームは多くの収益を上げている。
世界中のレースは、テレビでもサーキットでも観客動員数の記録を更新し、ドライバーたちは世界的に有名なセレブリティとなっている。
ブラジルでは、再びブラジル人ドライバーがF1で競い合っており、まだ大きな成果は上げていないものの、新人としては好パフォーマンスを見せており、2026年にはチームもさらに強くなる見込みであるため、彼の将来には大きな期待が寄せられている。

そして同時に、いくつかの問題が存在するのも確かだ。
レースのチケットはますます高くなり、多くのファンはもはや簡単には購入できなくなっている。
また、米国で開催されるレース数が非常に多く、偏っていることで世界中の伝統的なサーキットが除外され、多くのファンを不快にさせている。
さらに、F1カーのエンジンの将来については多くの疑問や問題が山積しており、これらの問題にどう向き合っていくか、今後数年間で様々な議論がされることになるだろう。

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