【特集】ブラジルにおける最近のF1チケット事情


ここ昨今、F1の人気は世界中で高まってきており、その成長に伴ってサーキットでレースを生観戦するチケットの需要も大幅に増加している。
しかし、ブラジルではグランプリのチケットを購入することが困難であるというだけでなく、ファンからの相次ぐ不満に有力政治家が動くほどの問題にまで発展してきている。

F1チケット購入の問題点


もともとブラジルではF1は常に高い人気を誇ってきたが、サンパウロ市で開催されるF1グランプリのチケットの需要が大幅に増加しはじめたのは2021年以降だ。

これにはいくつかの理由があり、従来のF1ファン層とは別の、主に若者と女性の間で人気が高まったこと、そしてサンパウロでのグランプリが「南米で唯一のグランプリ」であること、さらに2024年にアルゼンチン人ドライバーと2025年にブラジル人ドライバーが次々に参戦したことなどが挙げられる。

通常、スポーツに対する大衆の関心の高まりは良い傾向だが、チケット価格の急騰やチケットの希少化など、マイナスの影響が大きくなりはじめている。
インターネット上のブラジル人F1ファンの報告によると、2019年時点まではレースのチケットを購入することはそれほど難しくはなく、イベント当日までチケットを購入することが可能だった。

しかし、そこからわずか数年で状況は一変し、インターネットでの販売開始から数分たらずでチケットが即完売するようになった。

この即完状態は、人気の上昇とそれに伴うチケット需要の増加によって部分的には説明できるものの、ファンの中では販売を担当する企業になんらかの不正を行っているのではないかという不信感を抱くきっかけとなった。

ここまでならどの国にもよくあるブームなどの人気による入手難易度の変化として片付けられていたのだが、2025年11月にF1チケットが販売された際に問題は起きた。
購入を試みた人々の大半は購入できず、最も高価なチケットから、高齢者や身体障害者向けのチケットまで、5分足らずのうちにすべて完売するという事態になった。

この状況からファンの疑惑は、グランプリの主催者やインターネットチケット販売会社が、実は7万枚のチケットのすべてを一般販売していないのではないか、チケットの大半はダフ屋や旅行代理店に横流しされているのではないかという確信に変わり始めた。

この疑惑を裏付けるように、最近のインテルラゴス・サーキットでのグランプリ開催日に、必ずダフ屋が会場周辺で通常よりもはるかに高い価格でチケットを販売している。
また公式ウェブサイトでのチケット完売後にも関わらず、多くの旅行代理店がグランプリのチケット付き旅行パッケージを、はるかに高い価格で販売できているのだ。

こうした状況を踏まえ、F1ファンからの苦情や告発は多発し、とうとうブラジル連邦議員の耳にも届いた。
その一人エリカ・ヒルトンがこの問題に注目し、チケット販売を担当するEventim社に対する調査を約束するという事態にまで発展した。

同議員は、イベントのチケットが数分で7万枚全てのチケットが完売するのは不自然であり、特に問題なのはブラジルでのF1グランプリは公的資金で行われているため消費者の権利を守ることが最重要課題であると述べたのだ。

実際に現在のインテルラゴス・サーキットでのチケットの入手難易度は数年前と比べてどう変化してきているのだろうか?

筆者は2021年と2022年にグランプリを観戦した経験があるので自らの体験として話すと、2022年の頃は購入が難しいということはなかった。2023年は日本に留学していたため観戦できなかったので除外するとして、2024年の時点ではすでにチケットを購入できる状況ではなくなっていたのは確かだ。
また2025年のグランプリにいたっては、チケット販売開始時には購入できなかったものの、イベント数週間前にわずかに出回っていたフリマサイトで金曜日のチケットのみを運良く購入することができた。
人気のある土曜日と日曜日のチケットに至っては元の価格よりもはるかに高い価格が設定されていてとても手の届く価格ではなかった。

今後、この問題はなにかしらの調査が始まるはずなので、その顛末についてはまた別の機会に報告したいと思う。

ブラジルF1の醍醐味


さて話は変わり、よくも悪くも話題の尽きないブラジルF1界隈なのだが、その醍醐味もお届けしたいと思う。

サンパウロ住みの筆者にとって、インテルラゴス・サーキットは自宅から離れているため、F1グランプリ開催当日の金曜日早朝イベントに間に合わせるには朝5時には家を出ている必要がある。

距離は離れているものの公共交通機関でインテルラゴス・サーキットに行くのはとても交通利便性が高く、到着まで約1時間15分しかかからない。
さらに、サーキットのすぐ近くに駅があるので、サーキット最大のセクターGの入口ゲートまで数分歩くだけで済むのだ。

当日はサーキットのゲートは午前8時に開く予定だったが、入場待ちの列はかなり長くなっており、40分以上前に現地に到着したにもかかわらず、8時30分を少し過ぎてからようやく入場することができた。
1時間以上列に並んでいたわけだが、このイベントにおいて過去もっとも列は整然としていたと言っていい状況だった。
これは運営の体制が昨今の爆発的な人気に伴い、改善していることを感じた部分の1つだ。

2024年以降、F1に対する大衆の関心の高まりを受けて、インテルラゴス・サーキットは「グランプリウィークエンド」のために新しいアトラクションを創設。
それが「ファンゾーン」で、これはファンがF1に関連するさまざまなアトラクションを楽しむことができるものだ。

ファンゾーンでは、複数のドライバーがインタビューを受けたり、ファンの前でステージ上でゲームなどの遊びに興じる様子を目の前で見ることができる。
私にとってこの体験はとても新鮮で楽しいものだった。
というのもヘルメットも着けていないドライバーたちがマシンから離れ、彼らをより身近に感じることができるようなトークや遊ぶ姿は、より人間的な側面を、その所作や表情から感じ取ることができるからだ。
これは、F1運営がここ数年努力してきた部分でもあり、このスポーツが世界中で熱狂的な人気を博している理由のひとつにもなっている。

なんといってもお気に入りのドライバーであるマックス・フェルスタッペン、角田裕毅、ガブリエル・ボルトリート、そして特にアレックス・アルボンを間近で見ることができたことは大きな収穫だった。

新しい観覧席と新しいサービス


新しいアトラクションに加え、サンパウロでのグランプリ運営もファンを迎えるためのさまざまな改善がなされた。
その中でも、最も注目を集めたのはフランスから輸入された、2024年パリオリンピックの一部イベントでも使用された新しいGセクターの観覧ゾーンだ。

こちらの観覧ゾーンは、インテルラゴス・サーキットのセクターGで以前使用されていたものよりも狭いものだが、座席が備わっているため、長時間の観覧に向いており、とても快適なのだ。

もうひとつは、新しい観覧ゾーンほど注目は集まらなかったものの、私が最も気に入ったサービス、それはファンへの無料飲料水の配布だ。

通常インテルラゴス・サーキットでのグランプリ週末は非常に暑く、しかしサーキット内の飲み物の価格は非常に高いため、熱中症や脱水症状などの健康上の問題を防ぐ観点から、イベント主催者はファンに無料の飲料水を提供し始めたのだ。

これは素晴らしいアイデアであり、ブラジル国内の音楽コンサートやサッカーの試合など、他のイベントにも広がっていくことを願っている。

当然のことだが、ファンに無料で提供されているのは水だけであり、サーキット内では、依然として飲み物や食べ物などは非常に高価なので来場の際はそのつもりで。

特に、F1公式グッズのチームキャップやTシャツは想像以上に高価で、お金に余裕のあるファンだけが購入できるものとなっている。

さてインテルラゴス・サーキットの最大の特徴といえば、ファンがサーキットを見渡せることに尽きる。
特に反対側のストレートにあるセクターGからは、サーキットの約75%もの範囲を見渡すことができる。

2025年もサンパウログランプリではスプリントが開催された(2021年から導入された週末限定開催の短距離レース。距離が短いことでレース展開がより苛烈を極める)。

そのため、金曜日にはフリー走行が行われ、その後スプリント予選が行われた。

フリー走行は、2026年にF1のシャーシとエンジン部分の両方で大きな規則変更が行われるため、その前にこの世代の車をインテルラゴスで観られたことは最後にして絶好の機会だったと思う。

私にとって、応援しているタイ人ドライバー、アレックス・アルボンが、今回はガルフの特別塗装が施されたウィリアムズを運転している姿を観ることができたのは、特に嬉しい出来事だった(アトラシアン・ウイリアムズ・レーシングとパートナーであるガルフ・オイル・インターナショナルのカラーである淡いブルーとオレンジの象徴的なカラーリングで、ファンから寄せられたウイリアムズとガルフを連想する493の言葉が描かれている)。

また、ブラジル人ファンがブラジル人ドライバーのガブリエル・ボルトレトを応援する様子が間近で観られたのも非常に興味深い体験だった。
現在のブラジル人F1ファンは、かつてのようなブラジル人ドライバーを応援することの重要はあまりなくなり、多くのブラジル人ファンは他国のドライバーを応援しているからだ。
そんな中、ブラジル人ドライバーに希望を見いだすファンたちがこの場に集まってることはとても意義のあることだと思った。

そしてそれに呼応するかのように、アルゼンチンドライバーのフランコ・コラピントを応援するためにインテルラゴス・サーキットに集まったアルゼンチン人ファンのその膨大な数についても触れておく必要があるだろう。
アルゼンチン人は非常に熱狂的であることで知られているが、おそらくブラジル人ファンとの争いを避けるためにインテルラゴス・サーキットではあまり騒がず静かに応援することを心掛けていたようだった。
ここにもファンのあり方がどんどんアップデートされていっていると感じた一幕だった。

帰宅までの道のり

さて、F1観戦を存分に楽しみ、充実した1日を過ごした後、帰宅の時間となった。
インテルラゴス・サーキットは古いサーキットであるため、観客用の出口が非常に狭く、そのため多くのファンが一緒にゆっくりと歩くことから、出口までかなりの時間がかかってしまう。
その後の駅でも非常に混雑しており、これまた駅も非常に小さいため、電車に乗るまでにも時間がかかってしまうのだ。

しかし、電車さえ乗ってしまえば何ということはない、帰宅までは非常にスムーズで公共交通機関はよく機能するようになったと実感する。
疲労感も大きいが、インテルラゴス・サーキットに行ってF1を観戦するのはとても充実感の大きい体験だ。
残念ながら2026年以降、いつインテルラゴス・サーキット行けるかはまだわからない。

きっと当分チケットは入手困難だろうし価格も高いままだろう。
しかし願わくばそれが少しでも改善することを祈って、またいつかF1を観戦するためにインテルラゴス・サーキットに必ず戻るつもりだ。


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