8月8日(金)公開『アイム・スティル・ヒア』【ネタバレなし】観る前に知っておきたい映画がしっかり分かる3つのポイント
【1】物語の時代背景
1959年キューバ革命によって反米・社会主義思想の拡大に危機感を覚えたアメリカは、親米傀儡勢力を支援し、アメリカの「裏庭」中南米諸国に直接的・間接的な介入を繰り返すようになっていた。
一方ブラジルは1955年に「50年の進歩を5年で」という標語でブラジルに開発や変革の熱狂をもたらしたクビシェッキ大統領の遺した負の遺産である、膨大かつ慢性的な財政赤字、インフレに何年も苛まれ続けていた。
そんな中、1964年現職ブラジル大統領(ジョアン・ゴラール)を尻目にカステロ・ブランコ将軍によるクーデターが決行される。
アメリカ海軍艦隊がリオデジャネイロ沖で演習を行い、いざとなれば介入できる事実上アメリカ監視下のもとでのクーデターだった。
ブラジル大統領の座についたカステロはインフレ抑制のための緊縮財政や国営企業の民間への払い下げ、公務員縮小、福祉予算の削減などを行った結果、国民資本の企業倒産が相次いぎ、国民の窮乏化が急速に進んだことで国民不満が増大することとなる。
そうした背景からカステロ大統領退陣後、1967年に形式的な選挙を経て大統領に就任したコスタ・エ・シルヴァの軍事政権は新憲法を公布し、大統領に戒厳令の施行や地方諸州への介入権が与えられてしまう(この憲法によってブラジル合衆国から現在のブラジル連邦共和国と改名)。
益々独裁化に突き進んでいく政府に不満が高まった国民の一部は、この軍事政権に対抗すべくキューバ革命以降の”革命気運”の高まりも相まって学生や労働者を中心に軍事政権の転覆を目論んだ都市部を中心とした都市ゲリラへと結集し武力闘争は本格化する。
この状況を打開すべくシルヴァ政権は1968年に施行する悪名高き軍政第5号(AI5)を発令し、さらに状況はエスカレートしていくこととなる。
社会政治警察(DOPS)や陸軍諜報部(DOI-CODI)などによる反政府活動家やジャーナリストなどの反乱分子(疑わしき者も含め)の逮捕、勾留、拷問の果てに行方不明、遺体で発見されるケースなどが起きていた。
ブラジル都市部に住む人々はこういった蒸発に対しては一種の都市伝説か、はたまた触れてはいけないタブーのような扱いとして、我が身に政府からの冤罪の火の粉が降り掛からぬよう息を潜めていた。
そんな時代の空気漂う中、ブラジル軍事独裁政権樹立に反対の立場を取っていた土木エンジニア兼弁護士、ブラジル下院議員だったルーベンス・パイヴァ(この映画の著者の実父)が1971年に政府機関により突如勾留されるところから物語は始まる。
▶︎【2】では音楽の物語における重要性について紹介します!