「ブラジル特報」2026年1月号 (特集)COP30 のブラジルより マットグロッソ州 アマゾン先住民の村を訪ねて
ブラジルの政治経済・社会・文化に関する情報を伝えてきた「ブラジル特報」より、記事の転載許可をいただきました。
No.1690 2026年1月号
【特集】COP30 のブラジルよりより
マットグロッソ州 アマゾン先住民の村を訪ねて

永武ひかる(写真家)
30年ぶりの先住民地域訪問

熱帯林と農地
撮影協力:RFJ
2025年7月・8月、NPO法人の熱帯森林保護団体(RFJ)に同行して、マットグロッソ州の先住民地域を訪れた。1994年から97年に同行して以来、30年ぶりの再訪だった。
シングー先住民公園の上空では、一面に広がるアマゾンの森に心が高揚する。
けれども、保護区域の公園の境界を過ぎると、熱帯林の緑が切り刻まれ、農閑期の乾いた黄褐の地が広がっていた。その規模に驚いた。
すべて森だった大地。いろいろな命が息づいていたことを思うと胸がうずいた。
今では、大豆、トウモロコシ、綿花の世界的な産地となっている。発展を望む人々もいれば、食糧や作物を輸入に頼る国もある。
私たちもまわりまわってその恩恵を受けている。
先住民による養蜂事業

ハリナシバチの養蜂
撮影協力:RFJ
シングー川上流域カラパロ族の村では、RFJが支援してきた養蜂事業の現場に居合わせた。
白い防護服を借りて巣箱に近づくと、黒いカメラのまわりにブンブンと大群が押し寄せる。
炎天下、着ぐるみの作業は、まるで蒸し風呂での労働だ。
それでも巣箱には蜜がたっぷり。
昨年から養蜂を始めた村人の一人は、今年6月に設置した巣箱が順調で、これから巣箱を増やすと顔をほころばせた。
ピキとかカジューとか季節の花がいい時期だという。
防護服が不要な、刺さないハチもいることも初めて知った。
熱帯、亜熱帯にのみ生息する、針がないハリナシバチ。
希少価値の高い蜂蜜がとれる。
そして、ここにはここ特有の種類が生息している。
羽音から聴き分ける長老もいるという。
畑の隅の倒木の、数ミリの穴から出入りする、小バエに見える小さなハチもいた。
村の養蜂家は幹を削って巣を取り出し、養蜂箱に入れ替えた。
畑の主の家族も養蜂に参加するそうだ。
村に滞在していた時だけでも、ハリナシバチ3種の養蜂箱を新調した。
その一つは村の養蜂リーダーも初めてという種類だった。
見つけたのは村の女性。
斜めに傾いた幹を削ると、長さ1メートルほどにもなる巣が出てきた。
一部を切り出し巣箱に入れて、ハチたちが棲家にするのを待つ。
採れたての蜂蜜をいくつか味見させてもらうと、さやわかな花の香りがするもの、酸味が引き立つものなど、それぞれの味わいがあった。
近隣のマチプ村では、すでに4月から収穫した蜂蜜を売っていた。
村の集会で、養蜂は自然を大切にできるし、ハチが働いたものでお金になる、と言う声に、参加したいと村人の声があがった。
小さな営みにはちがいないが、地域のスペシャルな産物である。
人と自然が持ちつ持たれつ、未来につなぐ取り組みに思えた。
ただ、ここにも危険が迫る。
地域周辺部の大規模農業による農薬の影響をまぬがれないと、養蜂の専門家は言う。
先住民の消防団

ピアラスの消防団と IBAMA
撮影協力:RFJ
シングー先住民公園の北部に隣接するカヤポ族の地域を再訪。
30年前のピアラスには、新しい村を作ろうとする一家族だけがいた。
ポツンとある間口の空いた監視小屋にハンモックを吊り、ジャガーに怯えて夜を明かした。
それが今は、リーダーたちが居住し、大統領もが訪れるような拠点的な村になっていた。
10年ほど前からRFJが支援している先住民の消防団もあり、組織化が進められていた。
2024年の乾季に大規模な山火事が発生、村に火煙が迫った。
消防隊員の一人が命を落とし、多数の村人が健康被害にあった。
火災から一年、黒焦げた木々が残る中、消防団はブラジル環境・再生可能天然資源院(IBAMA)と連携し、予防と監視、消火に備えて体制を強化している。
どこで火災が起きているかわかるアプリも活用。
スマホ自体は先住民の誰もが手に、私よりずっと巧みに使っていた。
電気もWi-Fiも、訪れた先住民のどの村にも普及。
ディーゼル発電を備えつつ、ソーラーパネルと蓄電池のようなセットが各戸についている村もあった。
政府の「すべての人に電気(Luz para Todos)」事業の果実だろうか。
Wi-Fiは、つながり具合に良し悪しがあったものの、スターリンクの活用も目にした。
森林再生を目指す種子プロジェクト
興味深い種子プロジェクトもあった。
ブラジルのNPOシングー・シード・ネットワーク(Associação Rede de Sementes do Xingu)が主体となり、アマゾンやセラードの人々が在来種樹木のタネを収集して、必要な場所へ活用、森林再生を促すというもの。
村で目についた錠前付きの堅牢な建物はタネの倉庫だった。
タネは200種以上もあり、それらをまぜて地面にまくことで、多種多様な樹木が育つ森づくりになる。
自分たちの土地を守りながら生計の助けになり、担い手が多い女性の社会的向上につながる。
生物多様性の保全モデルとして、国内外から評価されているという。
第1回ブラジル先住民女性会議

カマユラ村での祭礼クアルピ
撮影協力:RFJ
ピアラスを訪れていたスタッフの生物学者に、長老が幼い頃の樹木の思い出を話していた。
ピアラスに滞在中、先住民女性たち団体一行がバスで首都ブラジリアから戻ってきた。
片道30時間ほどかけて、第1回ブラジル先住民女性会議に参加し、抗議の行進をしてきたという。
全国から5千人もの先住民女性が集った議題の一つは、アマゾン熱帯林の破壊を抑制してきた規制を緩和させる法案への抗議だった。
後日、大統領は署名し、法案を成立させた。
ただし、部分的に拒否権を発動し無効化。
最悪の事態は回避されたが、巨大開発による環境破壊の可能性は残されている。
それでも、初めての先住民女性会議は、先住民省と女性省、先住民女性の全国的連携組織による共同主催で、女性大臣たちも参加した。
このような動きの積み重ねによって、あらたな変化が生まれるのではと期待するのは楽観的過ぎるだろうか。
余談になるが、シングー滞在中、ビッショ・ド・ペーに巣食われた。
皮膚に入り込み、放っておくと卵を産みつけるスナノミ。
30年前、足の指先から小さな卵が飛び散りギョッとしたので知ってはいたけれど、今回は二度も。
足に痛みを感じて、見るとサンダルの隙間にポチッと黒い点。
それを針でチクチク取り出してもらった。
伝統的な野焼きの是非について
カヤポ族の村メチクチレからカポトに向かう途中、土地が黒焦げたところがあった。
昨年の山火事の名残だった。
この時期には伝統的な野焼きの風習がある。
森を管理し維持するための知恵と技術だが、それが通用しなくなってきているともいう。
雨が降る時期になっても雨が降らない。極度な乾燥に干ばつ。
カポト村では、カヤポ族のリーダーが創設したラオニ協会の主催で集会が開かれていた。
昨年の火事がどれほどのものだったか、被害状況の地図を見せながら、協会の先住民女性幹部が説明する。
今までとは違う気候や環境の変化がある。
川の水も減ってきている。
野焼きの伝統もこのままでいいのか。
現状を理解して、対策が必要だ。
村に消防団を作りたい。消火設備や仕組みを作り人員を養成、防火対策を整備する。
試しに小規模な消防隊を作り、ゆくゆくは消防団設立を目指したい。
それには資金がいるが、外部の支援なしでは実現できない。
そのためには、村の皆が理解して、賛同し協力することから始まる。
リーダーだけじゃない。
大人から子供まで、男も女も、保健や教育にかかわる人たち、すべて。
その日の呼びかけには、十分な人が集まらなかったので、祭りでみんなが集う機会に話し合うことになった。
村々では、長年にわたり先住民の活動を支え、辛苦をともにしてきた看護士さんや専門家たちにも出会った。また、遠く離れた日本からアマゾンの奥地に足を運び、40年近く支援活動をつづけているRFJの南代表に、先住民の長老やリーダーたちをはじめ、人々の信頼はとても厚い。
そして、国内外の支援とともに、先住民の人たち自らが足場を築き、活動の幅を広げているようにも感じた。
急拡大するアグリビジネス

開拓が進む町サン・ジョゼ・ド・シングー
撮影協力:RFJ
先住民の村との経由で滞在したサン・ジョゼ・ド・シングー(São José do Xingu)は、かつて町名がバンギ・バンギ(Bang-bang)農場だったという冗談っぽい歴史がある。
1970年代の開拓初期、荒くれ者の抗争が続き、その西部劇のような銃音に由来したのだという。
町から先住民の村へ行く途中、すし詰めの牛を乗せた大型トラックと度々すれ違い、町の開発も進む。
宿の前は、一面、何もない開拓地が広がり、重機が行き交っていた。
宿主はこの町も数年で見違えるようになるだろうと言う。
国内線で経由したSinopは言わずもがな、アグリビジネスで急成長した都市は、さらなる開発に人や資本を引き寄せている。
タクシー運転手たちから、南部出身の資本家や技術者と北東部などからの労働者が増えていると聞くと、社会の縮図を見たかのように感じた。
Sinop周辺も上空から見ると、これほどまでかと広大な森が農地になっていた。
それは世界からの輸入に頼る私たちの日常にもつながっている。
そう思うと、巨大な仕組みの片鱗にふれたような気がした。
けれども、多様な生命を育むのみならず、南米の穀倉地帯をもたらしているのは「空飛ぶ川」だという科学者もいる。
アマゾン川流域と熱帯雨林がもたらす巨大な水蒸気の流れ、この自然が失われると砂漠化が進むと警鐘を鳴らす。
さらに地球全体に影響が及ぶ。この危機感をどのように共有できるだろうか。
グローバルの波が押し寄せる一方で、カマユラ族の村で居合わせた、死と再生の祭礼クアルピは、伝統をほこる魂と大地の力に満ちていた。
ボディーペインティングした人々がスマホを手にセルフィーで発信。
その姿は、なぜだろうか、30年前よりずっと力強く輝いて見えた。
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