Netflix『セナ』に寄せて ー その後のブラジル人ドライバーたちの軌跡 ー

F1をいつから観始めたのかは覚えていないが、アイルトン・セナが亡くなった時、それが父と一緒にF1を観ていた最初の記憶だ。
テレビの向こう側で事故が起きたとき、ブラジルのみんながどれほど心配し、亡くなったと知ったとき、どれほど悲しんだかは覚えている。
もともと私と父の間に共通点は少なかった。
テレビをつけてF1鑑賞をする、それは父との数少ない共通の趣味だった。

セナ亡き後、1990年代のF1で最も有名なブラジル人ドライバーはルーベンス・バリチェロで、私は彼を応援しながらレースに釘付けになった。
とくに夢中になった時期は彼がスチュワート・チームでレースをしていたときで、小さなチームながら好成績を残していたことが大きな理由だった。

2000年代、ルーベンス・バリチェロはF1最強チームであり、アイルトン・セナも所属していたフェラーリと契約したことで、
レースやチャンピオン獲得への期待が高まり、かつてのセナのようにブラジル人が再びF1チャンピオンになる姿が再び見られると思うと、とても興奮したものだ。

しかし、フェラーリでのバリチェロは、いくつかのレースでは勝利したものの、2000年から2004年まですべてのチャンピオンに輝いた史上最強のドライバーのひとり”ミハエル・シューマッハ”とチームメイトだったため、チャンピオンシップを獲得するには至らなかった。

その後、フェラーリはフェリペ・マッサという若いブラジル人ドライバーを起用。
マッサは2008年にもう少しでチャンピオンになるところだったが、ブラジルのインテルラゴスでのレースを最後にタイトルを失ってしまう。

その後も私は粘り強く2012年までF1を観続けたものの、結局ブラジル人が優勝することはなかった。

2013年になると、他のことに時間を忙殺されるうちに父とも疎遠になりF1を観るのをやめた。

それから7年あまりの時が過ぎ去り2020年、再びF1を観戦する機会が訪れる。
コロナの大流行である。家に軟禁状態で時間だけはあったあの時、テレビのチャンネルを変えた先で偶然F1レースが目に飛び込んできた。

丁度2020年のチャンピオンシップはレッドブル・チームから参戦していたアレクサンダー・アルボンというタイ人ドライバーが台頭していた。
ブラジル人ではなかったが、タイ出身のドライバーがF1に参戦しているなんてあまりないことだったし、特徴的なカラーのレッドブル専属ドライバーというだけで、更にカッコよく映ったのだと思う。

そこからは、ブランクを埋めるように私はYouTubeで失っていた7年近い間のレースビデオを観返した。
ブラジル人ドライバーたちの苦節も追体験した。
余談だが3Dの飛躍が目覚ましい近年のF1ビデオゲームにまで手を伸ばすようになったのもこの頃からだ。

それ以降、私のF1への興味はレース観戦に留まらず 、2021年には夢にまでみた念願のブラジル、サンパウロにあるインテルラゴス・サーキットに実際に行き、F1レースの生観戦を果たすことができた。
間近で観るレースは、熱気、空気を振動させるエンジン音、どれも迫力が桁違いで翌年2022年にも続けてF1を生観戦するほどにのめり込んでいった。

2023年は日本に留学したが、時差の関係で夜中に起きてレースを観戦してから大学に行くという生活を続けていた。
また日本にはF1グッズ専門店というものがあり、ブラジルにはこういった店はなく、とても感動したのを覚えている。
店内にはたくさんの商品が飾られ、特にとても精巧なF1カーのミニチュアは、たくさん買いたい衝動を抑えるのが大変だった。

さてF1に話を戻すと、2021年以降はレッドブルチームがF1選手権を席巻し、ドライバーのマックス・フェルスタッペンは3連覇を叩き出し、2023年にはほぼ全レースで優勝を果たしていた。
同じドライバーと同じチームがずっと勝ち続けるのは退屈だという人もいるけれど、レッドブルチームとマックス・フェルスタッペンの場合はその継続した結果に裏打ちされた緻密な努力の賜物だったし、当然の結果であると認めざるを得ないだろう。

前述した私がF1観戦に戻るキッカケとなったアレクサンダー・アルボンは残念ながらその間、マックス・フェルスタッペンと同じチームであることが災いし苦戦を強いられ、やがてレッドブルのリザーブドライバー兼テストドライバーとなり、レッドブルから2022年にウィリアムズに転籍した。その後2023年のチャンピオンシップでは、マシンコンディションがあまり良くなかったにもかかわらず27ポイントを獲得して大健闘した。
将来、アルボンがより強いチームと契約し、表彰台に返り咲き、初優勝することを密かに願ってやまない。

最後に、F1観戦は永く楽しめる趣味だし、インターネット上でF1について誰かと語り合えるのも大きな楽しみの1つだ。最近ではちまたでもふたたびF1が注目され始めていると聞く。

そんなタイミングでの今回のNetflix「セナ」の配信は初心者にとても分かりやすい作りになっていたし、更にマニアも惹きつけられる業界の裏側やメカニックの詳細な描写が多々出てくる。そして何よりレース中のスピード感、サウンドが圧巻だった。F1を知るきっかけとしてとても理想的なドラマだと思うし、このドラマを通じてより多くの人々にF1が「身近な誰かと一緒に楽しむ共通点」となってもらえたら嬉しい。

私もそろそろ父を誘って生観戦に行く良い頃合いかもしれない。

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