ヘナート・ブラス待望の再来日!Renato Brazを深掘りするために知っておきたい5つのこと

ヘナート・ブラスが5月、待望の再来日を果たす。
彼の歌声には、オーガニックかつアーティスティックな世界を生み出し続けている。
その音楽をより深く味わうために、何を知ればいいのか?
歌の背景、創作の哲学、日々のルーティン──。ヘナート・ブラスを知るための「5つのこと」

ヘナート・ブラスを知るための「5つのこと」

Q. 音楽との出会いはいつでしたか?

「たぶん5歳くらいのときかな。両親が音楽好きでね、家にはいつも何かしらの音楽が流れていたんだ。特に覚えているのは、北東部の音楽、サンパウロの内陸部やマトグロッソ州の伝統的な音楽が幼少期からずっと身近にあったよ。
母方の影響で、マトグロッソ州のセルタネージョやインディオの伝統音楽にも自然と親しむことができた。一方で、父方の影響で、家族で北東部の音楽もよく聴いていたから、そっちのテイストも僕のルーツにしっかり刻まれている。家の中で流れる音楽が、両親それぞれのバックグラウンドを映し出していたんだよね。」

Q音楽のプロになってから、ターニングポイントとなった出来事はありましたか?

「そうだね、2002年にVISA賞を受賞したことかな。
この賞は、サンパウロのラジオ局・Rádio Douradoが主催する音楽フェスティバルの一環として開催されたもので、ブラジル各地から選ばれたシンガーが競い合う場だった。
そこで僕は賞を手にすることができた。
ただ、受賞したからといって、自分の音楽が急に大きく変わるわけではない。
むしろ、僕が作る音楽は世間一般の流れからすれば、よりニッチな方向へ進んでいるのかもしれないね。
それでも、あの受賞は自分にとって特別な瞬間だった。
なにか劇的に変化があったわけじゃないけど、音楽を続ける上での証のようなものだった気がする。
プロデュースの仕事や、それまで続けてきた活動を止めるわけでもなく、僕は昔からインディペンデントなスタイルで音楽を作り続けてきたし、今もそのスタンスは変わらない。
結局のところ、自分の軌道は大きく変わることはなかったんだ。
なぜかというと、僕にとって音楽とは、日々を記録することで、日々に向き合いながら生まれるものだから。
何かの賞を受けたからといって、急に別の道が現れるようなものではない。
音楽とは、僕が生きていくうえで欠かせない営みであり、その延長線上に続いていくものなんだ。」

Q. 日本に来て、ブラジルとの文化の違いをどこに感じますか?

「東洋の文化には、心で感じることが多いところに共感することが多いかな。
日本人は勤勉で、物静かなところがある。
黙して語らず、しかし耳を傾ける。
日本は“聴く”ことを大切にする国だと強く感じるよ。それは、非常に価値のあることだと思う。

ブラジルでは、少しずつ“聴く”という行為の本質を見失いつつあるのかもしれない。
私がまだ駆け出しの頃、バールで演奏していたときは、人々は音楽によく耳を傾け、集中して聴いてくれていた。
音楽がもたらす世界を共有していたんだね。
でも今、ブラジルでは人々が音楽を“聴くために立ち止まる”ことが少なくなった気がする。
音楽は本来、ただのBGMじゃない。
人を成長させ、今まで見えなかった世界を見せてくれるものだからね。

日本では、静けさの中にある豊かさや、耳を澄ますことの大切さがしっかりと根付いている。
だからこそ、演奏していても、その場の空気が変わる瞬間を感じることができるんだ。
聴くこと、それは音楽にとっても、人間にとっても、欠かせないものだと思うからね。」

Qブラジルの若者は、昔の音楽をどう聴いていますか?日本では、若い世代が昔の音楽に興味を持つことが少なく、世代間で聴く音楽の違いが大きいと感じます。ブラジルではどうでしょうか?

「同じだね。すべてが儚く、すべてが一瞬で過ぎ去っていく。
今のブラジルでは、セルタネージョとファンキが主流だよ。セルタネージョは昔のスタイルと比べるとだいぶポップス寄りになってしまった気がするかな。それを昔の音楽と比べるのは、日本の童謡と今のJ-POPを比べるようなものかもしれない。
たとえば、日本人なら誰もがどこかで耳にしたことがあるはずの『赤とんぼ』。ブラジルにも、それに近い存在の曲があるんだけど。70年代や80年代には、ラジオをつければそういった音楽が自然と身近に流れていたんだ。だから、完全に忘れ去られたわけじゃない。むしろ、もう一度その音楽を蘇らせるための仕事や使命が、僕たちにはあるのかもしれないね。」

Q芸術を一言で表すと?

「一言で? それは難しいね。でも、あえて言うなら——“ドーシ(Doce*)”かな。」
*「Doce」には「甘い」という意味の他に、「優しい」、「愛情深い」、「心地味わい」などの意味がある。

「芸術って、まるで神職のようなものなんだ。常にそばにあるべきもの。生きるために必要なものだからね。優しさでもあり、人生をより良くしてくれる存在。
だからこそ、一言で語るのは本当に難しいんだよ。」

そう語るヘナートさんの表情はどこか柔らかい。
彼の言葉は、まるで彼の生み出す音楽そのもののように静かに響き聞く人を包み込む。
芸術とは、美しさや驚きだけではなく、温もりでもあるのかもしれない。

アーティスト情報

ヘナート・ブラス(Renato Braz)
ブラジル・サンパウロ出身のシンガー、ギタリスト、パーカッショニスト。伝統的なショーロやMPB(ブラジル・ポピュラー・ミュージック)を独自のスタイルで表現し、その温かみのある歌声と繊細なアレンジで高い評価を受けている。1997年にデビューし、2002年にはVISA賞を受賞。国内外での公演を重ねながら、ブラジル音楽の豊かさを世界に届け続けている。

イベント情報

ブラジリアンデージャパン群馬
2025年4月26日(土)27日(日)
太田市運動場公園

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