「ブラジル特報」2026年1月号 (特集)COP30 のブラジルより COP30を終えて、民間企業としての参加経験から

ブラジルの政治経済・社会・文化に関する情報を伝えてきた「ブラジル特報」より、記事の転載許可をいただきました。
No.1690 2026年1月号
【特集】COP30 のブラジルよりより

Photo : flickr

国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)は、気候変動という地球規模の課題に対し、各国政府が交渉と合意形成を行う国際会議のこと。
2025年11月に開催されたCOP30は、ブラジル・アマゾン地域の都市ベレンを舞台に行われ、先進国と途上国、政府と民間、市民社会が交錯する象徴的な会合となった。
一方で、国際情勢の緊張や気候交渉の停滞、開催地のインフラ制約など、COPが内包する構造的な課題も同時に浮かび上がった。

人工衛星事業に携わる民間企業経営者として、また長年アマゾンと関わってきたアークエッジ・スペースの代表取締役福代孝良氏の視点から、COP30の現場で見えた状況や空気感を記録したものである。

COP30を終えて、民間企業としての参加経験から


福代孝良(アークエッジ・スペース 代表取締役)

3回目のCOP参加

政府ブースにおけるアークエッジ・スペースの展示及び筆者
Photo:アークエッジ・スペース


2025年11月、ベレンにおいて開催された、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)締約国会議(COP30)は、政府間条約に基づく国際交渉の場であるが、各国政府の合意形成のみならず、企業や市民社会を含む多様な主体による社会・経済活動が不可欠であり、企業、研究機関、市民団体など、幅広い関係者が参加している。

筆者も民間事業者として参加し、環境省が主導する日本パビリオンにおいて展示を行うとともに、ブラジル政府・ブラジル農牧業研究開発公社(EMBRAPA)が準備したアグリゾーンにおいてセミナーを開催した。
また、各国代表が集まる機会を活用した気候変動対応に向けた取組に関する覚書の署名なども実施した。

なお、筆者は現在、人工衛星の開発・運用および衛星データを活用したサービス提供を行うスタートアップ企業、株式会社アークエッジ・スペースを経営している。
民間企業としてCOPに出展・参加するのは、COP28(ドバイ)、COP29(バクー)に続き今回が3回目である。

また過去には外務省に勤務し、2012年のリオ+20国連持続可能な開発会議において、後方支援の立場に関わった。
さらに個人的には、1990年代後半の学生時代に、ベレンにおける木材産業で約1年間の研修を行った経験があり、それ以降、アマゾンの森林保全や地域開発に関する研究・活動に継続的に関わってきた。
近年は衛星データを活用した保全活動や事業展開の関係で、年に数回現地を訪れている。

本稿では、こうした長年にわたるアマゾンおよびベレンとの関わりも踏まえつつ、今回のCOP30を振り返る。
もちろん、筆者は政府間交渉の詳細やCOP30全体の成果を総括するものでも、そのような立場にあるものでもない。
あくまで一人の民間事業者として、速報的な報告および所感であることを、あらかじめお断りしておきたい。

宿泊インフラの問題

今回のCOP30は、開催以前から、開催地であるベレンの受け入れ能力をめぐって懸念が指摘されていた。
COP28(ドバイ)、COP29(バクー)では、いずれも7万人から8万人規模の参加者があったとされる。
一方、ベレンはもともと大規模な観光都市ではなく、市内の通常時の宿泊インフラは1万数千床規模にとどまると報じられており、大規模国際会議の開催地として十分かどうか疑問視されていた。

ブラジル政府およびCOP30事務局は、ホテルに加え、クルーズ船、民泊、短期賃貸住宅などを動員し、最終的に約5万3千床の宿泊施設を確保したと発表している。
しかし、これらは開催に向けて急ごしらえで確保されたものであり、都市が本来備えていた宿泊能力とは大きく異なる。

筆者自身、2012年のリオ+20会議に関わった際、ホテル数がベレンの10倍以上あるリオデジャネイロでさえ、宿泊確保が極めて困難となり、価格が平常時の数倍以上に高騰したことを記憶している。
その経験から、ベレンでの宿泊確保は極めて厳しい状況になると予想していた。
幸いにも、長年お世話になった方がCOP30会場徒歩圏内に居住しており、その部屋を借りることができた。

報道によれば、COP30の参加者数はおおむね5万人規模とされているが、宿泊価格は通常時の10倍以上に達した例もあり、参加を断念した企業や関係者も少なくなかった。
こうした状況は日本に限らず、欧州諸国を含む各国の関係者に共通していたと聞いている。

結果として、公式発表の参加者数とは別に、現地の体感としては、過去のCOPと比べ参加者が少ない印象を受けた。
特に首脳級・閣僚級の存在感は相対的に薄く、これはインフラ面の制約に加え、国際情勢の不安定化や米国の離脱など、複合的要因が影響したものと考えられる。
ブラジル政府も、人やイベントの過度な集中を避けるため、重要会合の一部をCOP本体とは時期や場所をずらして開催したとされている。

COP30の成果

アグリゾーンにおけるセミナーの様子
Photo:アークエッジ・スペース


会合の内容と成果に関しては、COP30は、米国によるパリ協定からの離脱をはじめ、国際情勢全体として気候変動対策における連携・協調に向かいにくい状況の下で開催された。
そのため、国際的に期待されていた炭素排出削減や化石燃料の段階的削減に関する、より強制力のある合意には至らず、最終文書も妥協的であったとの評価が見られる。

もっとも、気候変動対策を巡っては、従来から先進国と途上国の間で、責任と資金負担を巡る対立が繰り返されてきた。
そうした構図の中で、グローバルサウスの代表格であるブラジルが、アマゾン地域の都市ベレンでCOPを開催したこと自体が、強い政治的メッセージを帯びていた。

とりわけ、ルーラ大統領とマリーナ・シルバ環境大臣という、環境と正義、南北問題の象徴的リーダーの下で、ブラジルが森林保全や社会正義を含む気候政策の文脈を前面に押し出し、グローバルサウスの取りまとめ役として存在感を示した点は、賛否はあるにせよ大きな意味があったと感じた。
ルーラ政権やマリーナ・シルバ氏を支持する層からは特に高く評価されており、現地でも一定の高揚感として体感される場面があった。

大規模なデモや、先住民団体等の社会運動組織による抗議活動によって一時ゲートが封鎖される等のトラブルもあり、これらの活動に寛容な側面が目立ったが、基本的には平和裡に開催された。

また、このような社会面を表す一つとして、議長国ブラジルが主導して提示した Tropical Forests Forever Facility(TFFF) は注目を集めた。
TFFFは、アマゾンをはじめとする熱帯林の保全と森林劣化の防止を目的に、公的資金と民間資本を組み合わせて資金を呼び込む官民混合型(ブレンデッド・ファイナンス)の国際的メカニズムである。

ブラジル政府の説明では、主権系資金や先進国の公的資金を基礎に信用補完を施し、資本市場から大規模な民間資金を動員する設計が想定されている。
目標とされるファンド規模は約1,250億米ドルで、資金は元本を取り崩すのではなく市場で運用し、その運用益を原資として、森林保全の成果に応じた支払いを行う構造を取る。
単年度の援助や寄付に依存せず、森林を長期的・恒久的に支える財政基盤を構築しようとする点に狙いがある。

支払いは、参加国・地域が森林を維持管理した成果に基づいて行われる。
森林減少率や劣化の有無といった指標を、衛星データを中心としたモニタリングで評価し、一定基準を満たす場合に、森林面積に応じた成果ベースの支払いを行う設計が想定されている。

ルーラ大統領も、森林減少が極めて低い水準に抑えられているかを衛星監視によって客観的に確認する仕組みの重要性に触れ、TFFFがデータと科学的根拠に基づく制度である点を強調した。

TFFFはREDD+や炭素クレジット、排出オフセットといった既存枠組みと連続性を持ちながらも、違いを明確に打ち出している。従来の枠組みは主として「排出削減量」に価値を置く一方で、方法論の複雑さや市場価格の不安定さといった課題を抱えてきた。

これに対しTFFFは、排出削減量ではなく「森林が存在し続けていること」そのものを評価し、支払い対象とする点が特徴である。ルーラ大統領が援助型モデルの限界を踏まえ、森林を「樹木が立ったまま」維持する価値を正当に評価する新しい考え方を強く表明していた。

新たな環境経済に向けて

COP30 環境省日本パビリオンにおけるタジキスタン政府と
アークエッジスペースとの署名の様子
Photo:https://arkedgespace.com/news/2025-11-21_tjk


さらに、ブラジルの提案には、国家だけではなく、先住民や地域コミュニティ、小規模農民など、森林と共に生きてきた人々の生活と生計を守ることなくして森林保全は成立しないという認識に立ち、単なる自然保護ではなく、「環境正義」の課題として再定義する意図も感じられた。

気候交渉が「歴史的排出責任」と「将来の削減努力」という二項対立に陥りがちな中で、森林保全を共通課題として、森林国・南側諸国が意思決定の中心に関与する必要性を可視化しようとする試みでもあった。
このような生活重視の新たな環境経済に向けたメッセージは、COP30以前から、ルーラ大統領やマリーナ・シルバ環境大臣によってさまざまな場で繰り返し表明されていた。

もっとも、TFFFは構想段階の要素も多く、資金がどこまで集まるのか、既存の資金枠組みとどう整理するのか、成果評価の透明性をどう確保するのかなど、課題は少なくない。
それでも、排出削減交渉が停滞する局面において、森林を守るために国際社会が共有し得る合意ラインを示そうとした点に、一定の意義があったと考えられる。

新たな森林保全・支援枠組みについて

筆者は今回、環境省パビリオンでの展示に加え、アグリゾーンにおいて、国連宇宙部、MUFG、現地NGOの参加を得て、科学技術とファイナンスの融合による新たな森林保全・支援枠組みに関するセミナーを開催した。

議論を通じ、TFFFは、先進国の関係者や民間組織からも一定の評価を得ているとの手応えもあった。
筆者自身、長年アマゾンに関わってきたこと、また衛星技術などの活用に携わっていることによるバイアスは否定できないが、こうした方向性を「アマゾン発」で前進させようとした点は評価できると感じている。

現場で感じた運営面の課題

最後に現地運営面を補足すると、課題は宿泊インフラに限られなかった。会場施設の多くが大規模な仮設構造で、空調は不十分で異常な暑さとなり、各国代表団から不満の声も聞かれた。

熱帯特有のスコール時には雨音で会話が困難になり、雨漏りが生じる箇所もあった。
最終盤には火災という前代未聞のトラブルも発生した。ただし、火災は論外としても、気候変動を議論する場で「空調が効かない」と公然と不平を言いにくい空気があったのも事実である。

気候変動対策が「涼しい場所の高級ホテルや大観光都市でエリートが議論している」との批判や、そもそも数万人規模が一か所に集まること自体の矛盾が指摘される中、あえて暑くインフラが十分でないベレンで開催されたことには、皮肉ではあるが、問題の現実感を突きつける効果もあったのではないか――不謹慎かもしれないが、そう感じた。

また、筆者が学生時代の研修時代から、ODA等を活用して検討されてきた都市交通の改善等、30年近くできていなかったBRT開通など、残念ながら筆者は今回これらのインフラを活用することはできなかったが、COP30がベレンのインフラ整備に一定の役割を果たしたと期待したい。

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