【独占取材】ダニ・グルジェル来日インタビュー|ブラジル新世代音楽を牽引する声

2015年の『GARRA(ガーハ)』でブラジル・ディスク大賞1位受賞、カヴァー・アルバム『NEON』の発表から10周年を記念し、今回で9回目の来日公演を行ったDANI & DEBORA GURGEL QUARTETO(ダニ・アンド・デボラ・グルジェル・クアルテート)のDani Gurgel(ダニ・グルジェル)さん。
そのブルーノート東京公演の直前にインタビューをさせていただきました。
ブラジル音楽とジャズを新しい解釈で融合させたアーティスト活動のみならず、サンパウロを中心としたブラジル国内の新世代音楽シーン”Novos Compositores”(ノーヴォス・コンポジトーレス)を牽引する存在でもある彼女に、自身のルーツや進行中のプロジェクト、そして最新作”Coffee & Music”について…
現役パーカッショニストとして活動するインタビュアー・木川保奈美が、ミュージシャンの観点から質問させていただきました。

聞き手:木川保奈美 構成・撮影:Willie Whopper  協力:Blue Note Tokyo

木川(以下Q):それではインタビューを始めます。実は私にとって初めてのインタビューなんです。それがあなただなんて幸せ!

ダニ・グルジェル(以下ダニ):私も嬉しいです!

Q:あなたは昨年はDDG19 Big Bandという素晴らしいプロジェクトを行いました。
そのプロジェクトについて、どのような経緯で始めたのでしょうか。

ダニ:私が音楽の道を歩み始めた頃、最初に手にした楽器の一つがサックスでした。
そしてサックスを演奏していた頃、ビッグバンドのメンバーであることが一番楽しかったんです。

ダニ:私はいくつかのビッグバンドでサックスを演奏していました。
そのうちの一つはRoberto Sionのバンドでした。

Roberto Sion:ホベルト・シオン…名門インスト・グループ「パウ・ブラジル」のサキソフォン奏者として知られる

ダニ:15人の管楽器の中でサックスを演奏するという経験は、打楽器グループや合唱団、オーケストラの一員であるようなもので、全体の中のほんの一部に過ぎないという経験でした。
「ソリスト」ではなく、みんなと調和して演奏をしなければならなかったのです。だからDDG4を始めたとき、私はすでに、自分は自分というたった一つのパートである、という感覚を抱いていました。

ダニ:だから最初のアルバムの名前が”Um”というんです。

ダニ:そして、いつかビッグバンドで自分たちの音楽をやりたいとは、ずっと思っていたんです。
自分たちなりのやり方でビッグバンドを作りたいと…。
旅に出て、その街のビッグバンドと会って、そこで一緒に音楽を作るという活動もしています。いつか日本でもやってみたいと思います。

Q:9月にイヴァン・リンスが、ここブルーノート東京で、日本のビッグバンドと一緒に歌ったんですよ。
あなたにも是非ここ日本でビッグバンドをやってほしいです。
私もパーカッショニストとして参加したいなあ…

ダニ:ぜひやりたいです。あなたも参加してね。

Q:新曲の”Rilerá”について教えてください。
楽曲冒頭の子どもたちの可愛い声が印象的でした。

ダニ:”Rilerá”は造語で、ポルトガル語には存在しません。

ダニ:私たち自身が考えた言葉です。
子どもがするように、自由に想像するという意味です。
私たちは大人になるとより計画的になり、スケジュールや時間に縛られ、創造的な自由を失ってしまいます。

Q:より閉鎖的になりますよね。

ダニ:はい。閉鎖的で、硬くなってしまい、制約も多くなります。
芸術を創造するためには、もちろん義務的にやらなければならないことあります。
でも、私たちは何かを創造するとき、”rilerá”できることが必要なんです。

ダニ:この言葉は私の周りの子どもたちの名前から名付けました。
RIは娘のヒタ。
LEは甥のレオナルド、RAはもう一人の甥のハファエルから取っています。

木川:とても素敵ですね!
”Rodopio”以降のあなたの最近のリリースは”Dani and Debora Gurgel”名義です。
”DDG4”(クァルテート)からクレジットが変わったことに特別な理由はありますか?

ダニ:DDG4はここ日本で生まれた私たちの愛称です。
その後、このニックネームが気に入って、DDG4はバンド名ではなく、プロジェクト名であるべきだと考えるようになりました。
それに「Dani GurgelとDébora Gurgel」の方が、ストリーミングなどデータ上の管理がしやすく、私たちのすべての作品を繋いでくれます。
DDG4という名前は私たちのプロジェクトの一つですが、デボラとデュオで活動することもありますし…。
Dani GurgelとDébora Gurgelのデュオ、Dani GurgelとDébora GurgelのカルテットつまりDDG4、そしてDani GurgelとDébora GurgelのビッグバンドDDG19…としています。
もしかしたら、いつかDDG50になるかもしれませんね。今日は(トーも含め)DDG5です。

Q:最近、エルメート・パスコアールがお亡くなりになりました。
あなたは彼の楽曲をたくさん歌っています。
彼の音楽からどのようなインスピレーションを受けていますか?

ダニ:彼の曲「Forró Brasil」は、歌詞のない音楽を歌うきっかけとなった曲です。
サックスでよく演奏していた曲で、レパートリーに加えようと思った時、最初に候補に挙がった曲です。
この曲をベースに、私のスキャットの歌い方を全て編み出しました。
以前はサックスのアーティキュレーションで歌っていたのですが、その後、別のリズムを考えながら変化をつけ、最終的に「Forró Brasil」をベースに発展させたのです。

Q:1stアルバムの”Um”に収録されていますね。
あなたの制作拠点であるDa Pá Virada Studiosについて紹介してください。
音楽だけでなく、映像や写真のディレクションも行っていますね。

Da Pá Virada Studios ウェブサイト : https://dapavirada.com.br/en/estudio/

ダニ:スタジオは私たちがほとんどの時間を過ごす場所です。
チアゴと私は毎日そこにいますし、ヒタもそうです。
私たちの主な仕事は、他の人のアルバムをプロデュースすることです。
ここのスタジオで、たくさんのアーティストのアルバムを、様々なジャンルの音楽をレコーディングしています。
色んなアーティストが来てくれると、心に新鮮な風が吹き込まれるので、とても楽しいです。
私にとっては、音楽を聴くだけの人生なんて想像もできない。
ライブに行って、それから自分で曲を作って、レコーディングする。
そして他人の音楽に取り組むことも大好き。
なぜなら、彼らがやりたい方法で彼らの音楽に関わることで、私にも新たなインスピレーションが生まれるからです。

Q:あるミュージシャンが仲間の曲を演奏したり歌ったり…そういうあなたたち”Novos Compositores”の文化が大好きです。ところで、多くの日本人ミュージシャンがジャズを通してブラジル音楽を演奏し始めます。
ブラジル在住のブラジル人として、あなたはどのようにしてブラジル音楽とジャズを融合させたのでしょうか?

ダニ:私は Zimbo Trioの音楽学校CLAMでブラジル音楽とジャズを学びました。
ジンボ・トリオは1960年代に非常に有名だったサンバ・ジャズ・トリオです。
その学校で聴いていたレパートリーは、すでにサンバ・ジャズとブラジル・ジャズが中心でした。
ですから、その繋がりは私の生活の中で聴いていたレパートリーに常に存在していました。
ただそれ以上に、ブラジル音楽とジャズには繋がりがあると感じています。
でも、例えばボサノヴァはジャズの一種だと言われることがあるけど…私はその考えは好きではありません。
ボサノヴァはジャズに影響を受けたブラジル音楽です。

ダニ:3歳からリコーダーを吹いていました。
あの小さなリコーダーです。それからピアノ、それからフルート、サックス、コントラバスを学びました。
コントラバスを始めて、自分の楽器は声だと気づいたんです。

Q:ブラジル音楽に親しむ日本人のミュージシャンに向けてアドバイスをお願いします。

ダニ:たくさんの音楽を聴くことです。
音楽を聴くことで、音楽の中で何が起こっているのかを本当に理解し、感じることができると思います。
ブラジル音楽の言語には16分音符というものがあります。
これに慣れて、実践していくことが大事です。
心の中でそれを意識して慣れていくようにすると、そのリズムが心の中にあれば、音楽にも自然に表れるようになります。

Q:子どものころから、サンパウロで色々なブラジル音楽を聞いていたんですか?
例えば、フォホーとか、北東部の音楽とか、南部の音楽とか…

ダニ:はい、音楽学校や両親を通してたくさんの音楽を聴きました。
でもサンパウロでも、街に出ればアメリカのポップミュージックが聞こえてくると思います。

ダニ:ブラジルの音楽もたくさん聞けますし、世界中のポップミュージックもたくさん聞くことができます。

ダニ:ですが、これは私が博士課程の研究で学んだ特に興味深い点なのですが、ブラジルは、自国の音楽を最も聞いている国の一つなんです。
つまり、ブラジルの音楽は大量に消費されているということです。
しかし、ブラジルで最も消費されているのはブラジルのポップミュージックです。

Q:日本人がブラジル音楽を演奏しているのを聞いたことがありますか?
例えばYouTubeなどで…

ダニ:名前はわからないですが、何度か聞いたことがあります。
私たちの曲を誰かが演奏して送ってくれることが時々ありますが、それがすごく嬉しいです。
そうそう、大阪でDDG19の曲を演奏しているビッグバンドがあるんですよ!

Q:わあ、知らなかった!素敵ですね。日本人が演奏するブラジル音楽と、ブラジル人の演奏に違いは感じますか?

ダニ:はい、いつも違いを感じています。
なぜなら、演奏する音楽には自分たちのアクセントが加わるから。
だから、もし私がジャズを演奏しようとしたら、ブラジルのアクセントがついてしまっているから、それは決して「ジャズ」にはならないんです。

ダニ:そのように、ブラジル以外の人がブラジル音楽を演奏すると、そのアクセントが聞こえてくるんです。

ダニ:私もどうしても自分のアクセントが出てしまいます。
アクセントを消そうとすることもありますけど、私は自分のアクセントが好きです。

Q:Tó Brandileoneとあなたは長年の友人ですね。
彼との友情や共同作品について話していただけますか。

ダニ:私たちは高校の同級生でした。

ダニ:その頃から私たちは一緒に音楽を作っていたんです。
当時はいくつかのバンドを組んでいて、学校祭で演奏していました。
そして大人になってからは、ライブハウスやコンサートホールで演奏するようになりました。
私たちのリレーションシップはいつも良好で、一緒に音楽を作っていたんです。
大人になって作曲を始めたのですが、彼は私のバンドのメンバーでした。
私が”Novos Compositores”のプロジェクトを始める前に、彼を私のバンドに誘ったんです。
彼はギターで伴奏してくれて、私の最初のEPをレコーディングしてくれました。

Q:あの赤いジャケットのEP”Dani Gurgel”ですね!

ダニ:その中の”Mares de Lá”という曲でギターを引いているのは彼です。

ダニ:そして、”Novos Compositores”のプロジェクトで制作を始めた当初は、毎週ライブを行っていて、毎週ゲストを招いていたんです。
彼はそのバンドのメンバーでもありました。

ダニ:彼はゲストの伴奏にも参加しましたし、彼自身がゲストの一人にもなりました。
それ以来、私たちはいつもたくさんの音楽を一緒に作り上げてきました。
とても素敵な関係で、彼は私たちのスタジオでよくレコーディングをしたり、一緒に色々なことをしたりしています。だから、もう30年来の友人なんです。

Q:当初からオリジナル曲を一緒に演奏していたんですか?

ダニ:一緒に演奏を始めた最初の頃は、ちょうど作曲をし始めた頃でした。
最初に作曲したのは、同じ学校のヴィニシウス・カルデローニでした。
ヴィニシウスは既に作曲をしていて、カバー曲を演奏するバンドもやっていました。
そして、ヴィニの曲もいくつかありました。そこで、私たちも新しい曲を作り始め、発表し始めたんです。

Q:今回の”Coffee & Music”アルバム参加アーティストの中で、まだ来日していないJéssica GasparとLeandro Léoについて紹介していただけますか。

ダニ:このプロジェクトを始めた当初、日本と既に繋がりのある作曲家たちをキュレーションしたいと思っていました。
トーに、Tatiana Parraに、Gabriel Santiagoも。
そして、新しい人たちとの繋がりも作りたかったんです。
Jéssica GasparとLeandro Léoは、とても才能のあるアーティストであり作曲家でもあるので、このプロジェクトにぴったりだと思いました。
アルバムを制作するにあたって、統一感を持たせたいと思っていました。
そして、本当に素晴らしい作品になったと思っています。

Q:私たち日本の音楽ファンが、新たなブラジルのミュージシャンを知る良いチャンスになりますね。
そうそう…タチアナの2曲だけカヴァー曲ですね。何か理由がありますか?

ダニ:アルバムの流通のため、この作品は、色々な要素を盛り込んだ、変化に富んだアルバムにしたいと思っていました。
カバー曲もいくつか入れることが重要だと考えていて、タチアナがこの2曲を提案してくれたんです。

Q:このアルバムにマッチした2曲だと思います。

ダニ:私もそう思います。

Q:先月、あなたの友人のVanessa MorenoとSalomão Soaresが初めての日本公演を行ったんですよ。
知っていましたか?

ダニ:もちろん!

Q:彼らもNovos Compositoresの重要な音楽家ですよね。

ダニ:間違いないですね。

Q:彼らについて話を聞かせてください。

ダニ:二人とも素晴らしいミュージシャンで、私たちはよく一緒にコラボレーションしています。

ダニ:一緒に仕事をしたり、音楽を作るのが本当に楽しいだけでなく、彼らをとても尊敬していて、彼らの音楽を聴くのも本当に楽しいです。
彼らは本当に素敵な人たちで、いつもそばにいたいと思うんです。

Q:実は私が初めてブラジルに行ったとき、最初にライブを観たミュージシャンが彼、サロマォンだったんです。

ダニ:えー!それは素敵!

Q:その時、ブラジルの若手ミュージシャンはなんてレベルが高いんだろうって驚いたんですよ。

ダニ:本当にそうですよね!
そして、サロマォンは私の次のソロアルバムをレコーディングしているメンバーの一人なんです。

Q:えー!最高!ところで、このアルバムを制作するにあたり、あなたとThiago、堀内さん(cafe vivement dimanche)、佐渡さん(Rambling RECORDS)でどのような会話をしましたか。

ダニ:このプロジェクトは私たちが一緒に作り上げたものです。
他のCoffee & Musicプロジェクトでは、アーティストはソロ、もしくはデュオでした。
だからそれとは何か違うことをしたかったんです。
何度も意見を交換し、話し合い、一緒にブレインストーミングをしました。
というのも、新しい作曲家を一人だけにするか、あるいは複数人起用するか…あらゆる可能性を考えたからです。
そして今回、新進気鋭の作曲家を紹介するイベントを企画したら、すごく面白いんじゃないかと思い、たくさんの人を呼び込むことにしました。
今回はトーが来ていますが、彼はその作曲家たちの代表です。

Q:これでインタビューを終わります。時間内に終わってくれてありがとう!
ブラジルの人はたくさん喋ってくれるので、時間オーバーすることも多いから…(笑)

ダニ:あなたの質問リストが3ページもあるのが見えたから、頑張って短くしたの!(笑)

常に未来を見据え、サンパウロの音楽シーンを切り開き続けるダニ・グルジェルさん。
次回作の話もあり、今後の活躍も目が離せません。
また、私もミュージシャンとして東京の音楽シーンを盛り上げつつ、ブラジル音楽への造詣も今以上に深め、彼女のような唯一無二のアーティストとして活動していきたいと改めて思いました。
彼女たちDDG4の日本での活動のために尽力くださった、堀内隆志さん(cafe vivement dimanche)、佐渡和広さん(Rambling RECORDS)にも心より感謝申し上げます。

2015年ブラジル・ディスク大賞1位受賞の『GARRA(ガーハ)』

アーティスト情報

Dani Gurgel ダニ・グルジェル

ブラジル・サンパウロを拠点に活動するシンガー。パーカッシブでシンコペーションを効かせた「幻想的な音節」(NDR)は、ブラジルのリズムを刻みながら、ジャズやポップミュージックに溶け込んでいる。
サンパウロ大学で音楽コミュニケーションの博士号を取得しており、音楽、写真、オーディオビジュアル作品を融合させながら、デジタル文化産業を内側から研究している。

Dani & Debora Gurgel Quarteto ダニ&デボラ・グルジェル・クァルテート
ダニのシンコペーションを効かせたスキャット・ヴォーカルとデボラの躍動感あふれるピアノが融合し、ブラジルの魅力とジャズの即興演奏が織りなす、鮮やかで独創的なサウンドを生み出す。
Thiago Big Rabello(ドラム&ミュージックプロダクション)とSidiel Vieira(ベース)と共に、日本ではDDG4の愛称で親しまれているこのグループは、8枚のアルバムをリリースし、日本ではブラジルディスク大賞をはじめ様々なミュージック・プロ・アワードを受賞、世界ツアーも行っている。2024年には、SXSW、バークリー音楽大学、カリフォルニアジャズ学院、スタンフォード大学、ブラウン大学で公演を行うなど、3度のアメリカツアーを成功させたほか、プロジェクト「Rodopio」と「DDG19Big band」にインスパイアされたサンパウロでの教育ツアーも行った。

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